涼宮ハルヒの消失(Ω)

観ようかどうしようか迷っていたのだが、先週末に友人に誘われて観てきた。

ハルヒに関しては、私は第一作目の小説『涼宮ハルヒの憂鬱』を読んだだけで、アニメは見てない。『憂鬱』がいま一つだったので、それ以上追うのをやめてしまった。

なので、まず『憂鬱』の感想を少々。
本作の主人公「キョン」は、事の当事者ではなく、とにかく傍観者であろうとする。主体性の無さに突っ込みたくもなるが、そういう人物もいるだろうということでそれは置いておく。ただ、私は傍観者に対して都合の良すぎる展開が気に入らなかった。
例えば朝倉涼子にナイフで襲われるシーン。教室の扉は情報改変されて無くなっており、逃げ道は完全に断たれている。ここでキョンの取り得る選択肢は二つ。傍観者であることを止めて抵抗するか、黙って殺されるかだ。単純に考えれば前者を取るだろうが、あえて後者を取るのも傍観者としてのプライドが垣間見え、潔いといえる。
で結果はといえば、朝倉の能力でキョンは身体が動かせなくなり、刺されそうになった瞬間に長門が助けに来るというもの。
絶体絶命の状況で、さらに身体の自由を奪われるというのがポイントだ。命のかかった、主体的に行動せざるを得ない状況にもかかわらず、自分以外のものが行動を選択し、その葛藤を排除してくれている。一見して最悪の状況に追い込まれたかに見えるが、実はかなり甘えた展開といえる。
現実において傍観者でいるためには、それなりに選択しなければならない。しかし本作において、キョンは全く選択をしない。傍観者であることすら、選択したとは言い難い。彼はただ外部の選択に身を任せるだけの何もしない男だ。それを良しとしてしまう、葛藤も迷いも無いぬるい展開に私はついていけなかった。ついでに言えば、そのような作品が支持され、流行することも信じられなかった。

それに対して『消失』では、傍観者?を決め込んでいたキョンが、日常の崩壊を前にして、当事者であることを選択するらしい。気に入らなかった『憂鬱』がそのための伏線であり、『消失』まで含めてのハルヒ人気であるならば、これは見に行こうかしらんと思った次第。

では、以下映画の感想。多少ネタバレで。

冒頭のシーン、これは素晴らしかった。観ていて震えた。
真っ暗な画面、どこからか聞こえる目覚まし時計のアラーム。うめき声と共に、まぶたを開くように部屋の様子が映し出される。今まさに起きようとするキョンの視野である。ここで観客はスクリーン越しに、キョンの視野を共有することになる。
これはつまり、主人公「キョン」とは映画を観ているあなた自身だ、という宣言であろう。
ひたすら受身であったキョンの転機となる本作は、それを支持した観客に対しても転機を促す作品にするということか。ただの娯楽作では終わらせないという製作側の意気込みを感じる。

もう一点、これはと思った演出はガラス等の反射である。本作では窓ガラスや光沢のある床に、妙に人物が映り込む。
この演出の効果は二つある。一つは元の世界への憧憬。12月18日早朝を境に、キョンを取り巻く人物の性格、人間関係は変化してしまうが、外見の変化は全く無い。何かに映り込む像だけは、元の世界のままなのである。キョンが自席から呆然と外を眺める時、見た目は何も変わらない教室の様子がガラスに映り込むことで、彼の孤独と不安が一層強調される。
もう一つの効果はキョンの自省である。ハルヒ、古泉を失い、みくるに突き放されたキョンは、長門だけを頼りに、彼女の肩を掴んで訴える。結局彼女も変わってしまっていたが、顔を近づけた際に、キョンは長門のメガネに映り込む自身の姿を見る。ここで独りきりになったことを痛感すると共に、自分の像と向き合うことで、自分は何をすべきなのか、何がしたかったのかという省察が開始される。冒頭の目覚めのシーンの意味も考えると、それは観客の自省を促す訴えに他ならない。お前はお前の日常をちゃんと受け止めているのかと。地味ではあるが本作の山場の一つであろう。

と、ここまでは非常に面白かったのだが、あとは伏線の回収に終始してしまった感じで、ダレてしまった。何より、キョンが結局決断を下していないのには肩透かしを食らった感じ。朝倉がキョンを刺して止めるわけだが、実はキョンを救ったのだ。『憂鬱』と同じで、彼を選択の葛藤から開放したのだ。世界の修正を後回しにする結末もそれを裏付ける。なんとまぁぬるいこと!

結局『憂鬱』での私の不満が、『消失』で解消されることは無かった。前半の演出が良かっただけに、残念であった。


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